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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)7639号 判決 1990年8月06日

原告 協同住宅ローン株式会社

右代表者代表取締役 小石英夫

右訴訟代理人支配人 内山準之助

右訴訟代理人弁護士 江頭幸人

被告 西保恵子

右訴訟代理人弁護士 松本昌三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

(原告)

一  被告は原告に対し、金四五五万二二一五円及び内金三九六万一五五三円に対する昭和六三年四月二六日から支払いずみまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言。

(被告)

主文一、二項同旨。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  原告は、昭和五七年八月二六日訴外西幸一(以下「訴外西」という)に対し、金五一〇万円を、利息は年九・七二パーセントの割合とし、元利金を昭和五七年一〇月から昭和八二年九月まで毎月一二日限り金四万五三四〇円宛三〇〇回に分割して支払う、訴外西において元利金の支払いを怠った場合、訴外西は原告に対し弁済期日の翌日から支払いずみまで支払うべき金額に対する年一四パーセントの割合による遅延損害金を支払う、訴外西において右分割金の支払いを一回でも怠った場合、原告の通知又は催告により期限の利益を失い、訴外西は原告に対し残額を直ちに支払う旨定めて貸し付けた(以下「本件消費貸借契約」という)。

二  被告は、右貸付日に原告に対し、右訴外西の原告に対する借受金債務につき、連帯保証する旨約した。

三  訴外西が昭和六一年二月分以降の分割金の支払いを怠ったため、原告は訴外西に対し、昭和六二年八月一九日訴外西に到達した書面によって通知、催告をした。その結果、訴外西は、遅くとも同年九月一四日の経過をもって期限の利益を失った。

四  原告は、昭和六三年四月二五日、津地方裁判所上野支部での不動産競売事件における配当として金一七三万六六七〇円の支払いを受けたので、これを元金に充当した。その結果同日現在の債権額は、貸金元本残額金三一七万三八二八円、利息金七八万七七二五円及び遅延損害金五九万〇六六二円となった。

五  よって、原告は連帯保証人である被告に対し、貸金元本残額、利息及び遅延損害金の総計金四五五万二二一五円並びに貸金元本残額及び利息の合計金三九六万一五五三円に対する期限の利益喪失の日の後である昭和六三年四月二六日から支払いずみまで約定による年一四パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める。

(答弁)

請求原因一ないし三項の事実は認める。

(抗弁)

一(一)  被告の夫である訴外西は、昭和五七年七月一九日訴外大林産業株式会社(以下「訴外会社」という)から、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)を、金七二九万円で買い受けた(以下「本件売買契約」という)。

(二)  そして、本件売買契約による売買代金の支払いの目的で、本件消費貸借契約を締結して、原告から融資を受けたものである。

二1(一) 本件土地は、昭和五〇年ころに開発された二五〇区画の中規模団地の白鳳台団地内に存在する。同団地は、販売不振のため各区画を半分に割り直した間口約八メートル、奥行約二〇メートル、面積約一六六平方メートル単位となっている。

そして、道路に水道管が引かれているが、集中浄化槽や集中LPG設備はない。団地への進入路は、幅員四メートルの道路であるがカーブした旧態然としたものである。団地内の四メートル、六メートルの道路のアスファルト工事、コンクリートブロックの擁壁工事が粗雑でかつ管理が不十分なため、損傷が目立ち、団地全体は、荒廃が目立ち、将来への見通しの暗い原野化しつつある状態にある。

(二) 本件土地は、東西一九メートル、南北八・五メートルの長方形の土地であり、北側は幅員五メートルの道路にほぼ等高ないし一メートル高く面し、西側は幅員四メートルの道路に零ないし〇・五メートル高く面している。そして、西側を除く三方は、三、四段のコンクリートブロック積となっているが、安っぽい感じがする。

(三) そして、本件土地の価格は、昭和六二年一一月当時においても、一平方メートル当たり金一万一七〇〇円程度、全体で約一八九万円に過ぎず、また、昭和六三年四月二五日に、不動産競売事件において約金一七三万円で競落させたものである。

2(一) 訴外会社の担当セールスマンの訴外小西は、無差別に戸別訪問し、居住目的よりも利殖商品として土地の購入を勧誘した。

(二) そして、訴外小西は訴外西に対し、

(1) 國がバックに付いており、國から格安で払下げを受けた物件であるから格安である。

(2) 値上がりすることの間違いのない投資物件で、直ぐに、二、三倍の値段になる、転売の心配はない、万一の場合訴外会社が買い戻す。

(3) 近くを通るJR関西線が複線化されるし、近鉄が付近を通り、相互乗り入れの駅ができる。

(4) 団地付近までバスが運行される。

(5) 近所に松下等の企業が進出し、工場団地が建設され、住宅団地も建設される。等と虚偽の事実を告げ、更に、ローンについては訴外会社が提携している國の金融機関である農林中金を紹介する旨を告げて勧誘し、築炉業を営む平凡な一市民である訴外西をして本件売買契約を締結させた。

3 以上のように訴外会社の行為は、訴外西の無知、無思慮に乗じて、二束三文の本件土地を法外な価格で売りつけたものであり、商道徳に著しく反した詐欺的手法による暴利行為であり、本件売買契約は、公序良俗に反し無効である。

三1  本件借入金は、本件土地の購入代金支払いの目的で借り入れたものであるところ、その使用目的は、本件土地の購入代金の支払いに限定され、借入金を訴外西において自由に費消できないこととなっていた。そして、手続的には、訴外会社が借入金の受取人とされ、借入金を訴外会社が確実に取得する仕組みとなっており、また、訴外会社は、分譲地の購入者(融資申込人)に代わって、融資適格の調査についての原告との面接日の指定や担保権設定登記の代行をする等融資申込人の事実上の代理人としての行動をしており、本件売買契約と本件消費貸借契約は、手続的にも互いに他の契約の存在を前提にしていた。

すなわち、本件消費貸借契約は、本件売買契約の代金支払いの目的でのみ締結されたものであり、両契約は一体不可分の関係にあり、目的拘束依存関係にあった。

2(一)  訴外会社は、昭和四五年二月一七日に設立された宅地分譲業者であり、主として三重県上野市を中心に青葉台、高倉台、美旗グリーンハイツ、白鳳台等約二〇か所の団地の造成、販売を行ってきた。

(二) 原告は、住宅ローンの専門金融機関として、訴外会社と協同住宅ローンに関する協定を締結し、昭和五四年一一月ころから、訴外会社の斡旋により訴外会社の顧客に対し多額の融資をなし、右貸付金は、土地の売買代金として訴外会社に還流し、実質的には訴外会社の営業資金及び運転資金として費消され、それにより、資金面から訴外会社の土地販売を支援し、他方、訴外会社は、分譲地の売買代金の融資を斡旋することにより、原告の貸付先の開拓をなし、原告の業務の推進に寄与してきた。

(三) このように、原告と訴外会社は、営業上も、継続的な業務提携関係にあり、密接な関係を有していた。そして、これにより、原告は、多額の融資利益を得ていたものである。

3  訴外会社は、顧客に対して原告を斡旋することにより金融機関の融資を受けうる信用のある会社との宣伝をなし、原告は、訴外会社が分譲地の販売に際して顧客に配付するパンフレットに原告を提携金融機関と記載することを承諾し、原告も、顧客との貸付契約に際し作成する関係書類に訴外会社を提携会社と記載している。

このようにして、原告は、訴外会社の分譲地の販売、広告、宣伝に深く関与することにより、一般の顧客に対し、訴外会社あるいは訴外会社が販売する商品が信用のおけるものとの信頼を与えていた。

4(一)  原告は、訴外会社と密接な関係にあったから、訴外会社の営業内容、商品、信用全般を調査しうる立場にあり、その能力を備えており、これを調査していたものである。

(二) また、原告は、分譲地である本件土地を担保として、本件土地の購入代金を融資したものである。したがって、原告は、担保物件である本件土地の実勢価格も調査しているはずである。

そして、通常、金融機関は、土地購入資金を融資する場合、対象物件を担保に取り、融資額を対象物件の換価価値の七ないし八割を限度としている。

(三) 前示のとおり、原告は、訴外会社と密接な関係を有することにより、一般の顧客に対し、訴外会社の信用性についての信頼を与えていた。

これらのことから、訴外西は、本件土地が最低限原告から融資を受けた額相当の価値があるものと信じていたものであり、そう信じることは当然のことである。

(四) しかるに、原告は、訴外会社の土地売買の不当性、暴利性、違法性を認識し、あるいはこれを認識しえたにもかかわらず、自己の利益のために、被告らの信頼を裏切り、実勢価格を無視した過剰融資を実行したものである。

四  以上により、本件消費貸借契約は公序良俗に違反し無効であり、また、信義則上、被告は、訴外会社に対して主張できる本件売買契約の無効を、被告に対しても対抗することができる。

(抗弁に対する答弁)

一  抗弁一項(一)の事実は認める。

二1  同二項1(一)、(二)の事実は知らない。

同(三)の事実は否認する。本件土地は、津地方裁判所上野支部昭和六二年(ケ)第一七三号不動産競売事件において、昭和六三年初旬、金一九〇万円で売却されたものである。

2  同項2の事実は知らない。

3  同項3の主張は争う。

三1(一) 同三項1の内、訴外西が本件土地購入代金支払いのために本件の借入れをしたこと、消費貸借契約及び抵当権設定契約等につき、原告が訴外会社に申込人の意思表示の受領の使者としての代行あるいはその事務的処理の取り次ぎをさせていたことは認め、その余の事実は否認する。

(二) 本件売買契約と本件消費貸借契約とは、事実上も法律上も別個の契約である。

訴外西は、自己資金あるいは他の金融機関から資金を借り入れて本件土地を購入することは自由であり、この場合、原告に融資を依頼する必要もなかったものである。また、原告は、訴外西の収入等信用状態を調査、審査し、支払能力が無ければ融資を拒否できたものである。したがって、本件売買契約が成立しても、原告は、訴外西への融資を義務ずけられていたものではない。即ち、本件消費貸借契約は、訴外西の借入申込みがあり、原告がこれを承諾したことにより成立したものであり、本件売買契約とは別個のものである。

また、本来借入金は訴外西において自由に費消できるにもかかわらず、訴外西において、代理受領承認依頼書を作成提出して、原告に対し借入金の振込先及び振込口座を指示した結果、訴外西が他に費消できなかったに過ぎないものである。

2(一)  同項2(一)の内、訴外会社が宅地分譲業者であることは認める。

(二) 同(二)の内、原告が訴外会社との間で協同住宅ローンに関する協定を締結したこと、原告が訴外会社の紹介により融資していたことは認め、その余の事実は否認する。

(三) 同(三)の主張は争う。

(四) 原告は、昭和五四年一一月八日訴外会社との間で、次の条項等を内容とする協同住宅ローンに関する協定を締結した。

(1) 原告は、訴外会社が販売または仲介する土地建物並びに訴外会社が請負建築する建物を融資対象物件として、融資限度額金一〇億円の範囲で融資する。

(2) 訴外会社は、訴外会社が販売または仲介する土地建物並びに訴外会社が請負建築する建物の取得者に原告の融資を斡旋、紹介し、借入申込書類等を受領した場合は、内容を点検の上原告に取り次ぐ。

(3) 有効期間は、昭和五四年一一月八日から昭和五六年一月三一日迄とする。

その後、昭和五五年五月一〇日に右融資限度額を金五億円増加する旨、同年一〇月一日に右融資限度額を金二〇億円増加する旨それぞれ合意し、また、有効期間も順次一年づつ延期した。

原告と訴外会社との関係は、右協定によるものであり、それ以上のものではない。

3  同項3の内、訴外会社の分譲地販売に関するパンフレットの一部に原告ら数社が提携金融機関として記載されていたことは認め、その余の事実は否認する。

4(一)  同項4(一)につき、原告は、訴外会社につき一般的、包括的調査を行ったが、営業マンの個別的、具体的営業活動については調査していない。このことは金融機関の一般的調査方法である。

(二) 同(三)の事実は否認する。

(三) 同(四)の事実は否認する。

本件のような提携に基づく融資は、低額融資であるため、融資費用のコストダウン等を考慮し、事務処理の簡略化等の一環として売買価額を評価額とし、その約七〇パーセントを限度として融資することとなっている。即ち、訴外西ら融資先の金利負担を軽減するため、さらに融資先の便宜を計るため、簡易な方法による対象物件の評価をしたものである。

四  同四項の主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因一ないし三項の事実は当事者間で争いがなく、原告が、昭和六三年四月二五日、津地方裁判所上野支部での不動産競売事件における配当として金一七三万六六七〇円の支払いを受け、これを元金に充当したことは原告において自認するところである。

二1  抗弁一項の事実は当事者間で争いがない。

2(一)  右事実、《証拠省略》を総合すれば、

(1) 訴外西は、被告の夫であるところ、日本ファーネストの商号で、従業員二、三名を使用して、築炉業を営み、年間金四〇〇〇万円程度の売上を得ていたこと、そして、昭和五四年ころに自宅をローンで購入した以外不動産の取引をしたことはなく、土地の売買には不慣れであったこと

(2) 昭和五七年七月ころ、訴外会社の従業員である訴外小西某(以下「訴外小西」という)が、突然いわゆる飛び込みで訴外西の自宅を訪れ、その後も二、三回訴外西方を訪れ、また訴外西や被告を本件土地に案内する等し、「本件土地は國から安く払下げを受けて分譲する物件であり格安である。家は直ぐにも建てられる。値上がりの間違いのない物件であり、二、三年後には三ないし五倍に値上がりし投資の対象にもなる、買手がなければ訴外会社が買い戻す。」「JR関西線が複線化され近くに駅が設置され、JRと近鉄とが相互乗り入れする。駅から団地の入口までバスが運行される。」「近くに工場団地が建設される。付近の土地をナショナルが社宅用として買っている。」「農林中金からローンで借入れができる。」等と虚偽の事実を告げて本件土地の購入を勧めたこと、被告らが本件土地に案内された際には、分譲地内の本件土地付近の区画には売約済の表示が多数なされており、訴外小西は、「早いもの勝ちである。」旨述べていたこと

(3) 訴外西は、訴外小西の話を信用し、利殖を目的として、昭和五七年七月一九日訴外会社との間で本件売買契約を締結し、そのころ、訴外小西に、手付金七五万円、次いで中間金一四四万円を交付してこれらを支払い、残代金の支払いについては、農林中金から金五一〇万円を借り入れて支払うこととしたこと、しかし、後記認定のとおり原告から融資を受けて右残代金を支払ったこと

(4) その後、訴外西は、昭和六〇年ころから事業不振に陥り原告への弁済ができなくなったことから、本件土地を売却しようとして、本件土地近辺の不動産仲介業者を訪ねたところ、本件土地の価額は金一〇〇万円程度であることや買手がみつからないこと等を聞かされ、始めて本件土地の実際の価額を知ったこと、そこで、訴外西は、昭和六一年一月ころ、訴外会社に買戻しを求めたが、訴外会社に拒否されたこと

以上の事実が認められる。

(二)  《証拠省略》によれば、

(1) 本件土地は、JR関西本線伊賀上野駅西方約三キロメートル、近鉄伊賀線上野市駅北西約四・五キロメートルに位置し、丘陵地帯にあり、昭和五〇年ころに造成された約二五〇区画の中規模団地の白鳳台団地内に存在すること、団地内は、道路に水道管が引かれているが、集中浄化槽や集中LPG設備はなされていないこと、同団地は、販売不振のため各区画を半分に割り直した間口約八メートル、奥行約二〇メートル、面積約一六六平方メートル単位となっていること、団地への進入路は、幅員四メートルの道路であるがカーブした旧態然としたものであること、団地内の四メートル、六メートルの道路のアスファルト工事及びコンクリートブロックの擁壁工事が粗雑でかつ管理が不十分なため、昭和六二年一一月当時においては、損傷が目立ち、団地内には住宅が二戸建築されているのみで、団地全体としては、荒廃が目立ち、将来への見通しの暗い原野化しつつある状態にあったこと

(2) 本件土地は、東西約一九メートル、南北約八・五メートルの長方形の土地であり、北側は幅員五メートルの道路にほぼ等高ないし一メートル高く面し、西側は幅員四メートルの道路に零ないし〇・五メートル高く面し、東側は約一メートル低く宅地となり、南側は約〇・三低く宅地となっていること、西側を除く三方は、三、四段のコンクリートブロック積となっているが、安っぽい感じがすること

(3) 原告が申し立てた津地方裁判所上野支部昭和六二年(ケ)第一七三号不動産競売事件における評価人の本件土地の評価額は、昭和六二年一一月時点において金一九〇万円(一平方メートル当たり金一万一七〇〇円)であり、本件土地は、右事件において昭和六三年初旬金一九〇万円で売却されたこと

以上の事実が認められる。

(三)  以上認定の各事実、昭和五七年ころ以降の社会情勢及び経済情勢に照らせば、本件土地の価額は、本件売買契約が締結された昭和五七年七月当時においても金一九〇万円(一平方メートル当たり金一万一七〇〇円)を超えるものではなかったことが認められ、訴外小西は、本件土地が近い将来の発展の見込みも薄く、土地の価額が値上がりする可能性も極めて少ないにもかかわらず、いわゆる財テクブームに煽られた訴外西らに対し、虚偽の事実を告げて本件土地の購入を勧誘して購買心を煽り、訴外小西の言を信用した訴外西をして、時価の約三・八倍の値段で本件売買契約を締結させたものであることが認められる。もっとも、訴外西は、現場へ案内され本件土地及びその付近の状況を現認しているのであるから、これを前提にしあるいは自から的確な情報を収集する等して充分検討すべきであり、これをしなかった点に軽率のそしりを免れないが、このことを考慮しても、訴外小西の行為は、訴外西の無知、無思慮に乗じた、商道徳を著しく逸脱した暴利行為であり、本件売買契約は、公序良俗に反し無効というほかはない。

3(一)  《証拠省略》によれば、

(1) 訴外会社は、昭和四七年ころに設立された、不動産の売買、仲介、宅地の造成、分譲等を営む株式会社であること、そして、主に三重県上野市を中心に宅地の分譲を行っていたこと

(2) 原告は、主として不動産の購入資金の融資を行っている金融機関であるところ、昭和五四年一一月八日訴外会社との間で、次の条項等を内容とする協同住宅ローンに関する協定を締結したこと

ア 原告は、訴外会社が販売または仲介する土地建物並びに訴外会社が請負建築する建物を取得する者(以下「一般顧客」という)に対して、右物件の購入資金を融資する

イ 原告は、融資対象物件について、訴外会社から事前審査の依頼を受けた場合は、すみやかに審査のうえ融資比率、融資期間等を訴外会社に通知する

ウ 融資の総額は金一〇億円を限度とする

エ 訴外会社は、一般顧客に原告の融資を斡旋、紹介し、借入申込書類等を受領した場合は、内容を点検のうえ原告に取り次ぐ

オ 原告は、訴外会社から取り次ぎを受けた借入申込みについて、すみやかに審査のうえ、融資の可否を決定し、訴外会社及び一般顧客に通知する

カ 原告は、一般顧客の委任に基づき、訴外会社に対し貸付代わり金の代理受領を認めるものとする

キ 訴外会社は、原告が提携を承認した物件にかかわる広告宣伝に関し、事前に原告と協議するものとする

ク 訴外会社及び原告は、物件の状況、金融情勢等に関し相互の情報を交換し、円滑な意思の疎通を図るものとする

ケ 訴外会社は、原告が一般顧客に対し融資を実行し所定の担保権の設定登記するまでの間、一般顧客が原告に対して負担する一切の債務について一般顧客と連帯して保証の責に任ずる

コ 協定の有効期間は、昭和五四年一一月八日から昭和五六年一月三一日までとする

(3) 原告と訴外会社は、昭和五五年五月一〇日、右協定の融資限度額を金五億円増額する及び協定の有効期間を昭和五六年三月三一日までとする旨の、次いで昭和五五年一〇月一日右協定の融資限度額を金二〇億円増額する旨の合意をしたこと、また、協定の有効期間も順次一年づつ延長されたこと

(4) 右協定に基づき、原告は、訴外会社が販売する不動産を対象に、訴外会社の紹介により訴外会社の顧客に対し、不動産の購入資金を融資してきたこと

(5) 原告は、訴外会社の分譲地販売に関するパンフレットの一部に原告が提携金融機関として記載することを承認し、右パンフレットに原告が提携金融機関として記載されていたこと

以上の事実が認められる。

(二)  《証拠省略》によれば、

(1) 訴外西は、本件売買契約を締結した後の昭和五七年七月下旬、訴外小西から、原告宛の協同住宅ローン借入申込書の用紙の交付を受けて右書類の作成を求められ、融資する金融機関が農林中金ではなく原告であることを知ったが、特に異議も述べず右書類を作成して訴外小西に交付したこと

(2) その後、同年八月下旬、訴外小西の指示により、訴外小西が持参した用紙を使用して、借主として訴外西、連帯保証人として被告がそれぞれ署名して原告との間の金銭消費貸借契約書を作成し、抵当権設定契約書、仮登記担保契約証書及び借受金の代理受領承認依頼書に訴外西が署名して右各書類を作成し、これらの書類を訴外西の三か年分の所得税の確定申告書の写、訴外西の納税証明書、訴外西及び被告の印鑑登録証明書と共に訴外小西に交付したこと

(3) これにより、同年八月二六日、原告が農林中央金庫に振込送金を依頼して、代理受領者である大阪府民信用組合名義の株式会社三和銀行の預金口座に金五一〇万円が振込送金されて本件消費貸借契約が締結され、右の貸金債務を担保するため本件土地に抵当権が設定され、右借入金で訴外会社への残代金の支払いがなされたこと

(4) 本件消費貸借契約の締結にあたっては、原告の担当者が訴外西に電話で照会したのみで、被告や訴外西が原告の担当者と面接したことはなかったこと

以上の事実が認められる。

(三)  以上認定の事実に照らせば、原告は、昭和五四年一一月訴外会社と協同住宅ローンに関する協定を締結して以来、訴外会社と継続的な提携関係にあり、訴外会社の紹介により、訴外会社の一般顧客に対して不動産の購入資金を融資してきたものであり、右原告の融資は、訴外会社と一般顧客との間の売買契約を前提としたものであり、また、一般顧客も原告の融資を前提として訴外会社と売買契約を締結していたものと推認され、訴外会社と一般顧客との間の売買契約と原告の一般顧客との消費貸借契約とは法律上別個のものであるとはいえ、経済的には密接不可分の関係にあったものと解される。本件各契約も右と同様であり、本件売買契約が締結されていなければ、本件の融資はなされなかったであろうし、訴外西も、本件消費貸借契約に基づく融資がなければ本件売買契約を締結することもなかったものと推認され、本件借入金の使用目的は、本件土地の購入代金の支払いに限定され、訴外会社が訴外西の融資手続を代行していたものであり、本件売買契約と本件消費貸借契約とは密接不可分の関係にあったものと解される。

そして、原告は、訴外西に対して本件土地の時価をはるかに超える金額の融資をしているところ、原告の担保価値は売買価額を評価額とする旨の主張に照らせば、原告は、本件土地の価額の調査をすることなく本件消費貸借契約を締結し、その担保として本件土地に抵当権を設定したものと推認され、さらに、本件記録によれば、本件訴えにおいて被告と共同被告とされた一一名についても、訴外会社から土地を購入するにつき、原告は、当該土地の価額をはるかに超える金額の融資をしていたことが認められ、これらも当該土地の価額の調査をなさずに融資されたものと推認されるところ、例え原告主張のように、経費のコストダウンを図る等の目的であったとしても、このような融資方法は、金融機関としてあまりにも軽率であるといわねばならず、原告において本件土地の評価を適切に行っていれば、本件のような多額の融資を行うことはなく、そうなれば訴外西も本件売買契約を締結することもなかったものと考えられ、これらの事情に照らせば、本件土地に対する不動産執行による配当によっても回収できなかった部分についての回収不能のリスクを原告に負担させても何ら不当ではないものと解される。

以上の事情を考慮すれば、本件消費貸借契約と本件売買契約が別個のものであることを理由として、訴外西が訴外会社に主張できる本件売買契約の無効を原告に主張できないとすることは、取引上の信義則に反するものといわねばならない。そして、前示被告と訴外西との身分関係を考慮すれば、連帯保証人である被告も、原告に対して、本件売買契約が無効であることを主張して本件の貸金債務の支払いを拒否することができるものと解する。

三  以上のとおりであり、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺﨑次郎)

<以下省略>

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